オオミノガと寄生バエ
 

オオミノガのミノ

ビロウに付いていたミノムシ


左は金峰町東方集落で,ヒサカキに付いていた.  右は2002.12.19鹿大校内のビロウに付いていたオオミノガ?

大原氏によるオオミノガとオオミノガヤドリバエの話

チャミノガとオオミノガの比較はこちら
  大原氏による写真
オオミノガ:雌雄の比較はこちら
     大原氏による写真

 もともとオオミノガにヤドリバエがつくなどとはまったく思ってもいなかった我々の大先輩である
九大の嶌さんのところに,何でも飼育してやろうという弟子が入ったことで話が始まりました.
舘(たち)君という院生さんが冬にオオミノガのミノをいっぱい採集してきて,
「たくさんハエを出しますよ」・・と嶌さんにいったところ,嶌さんは「オオミノガにはハエはつかんよー」と
一笑に付してしまったのです(とご本人が言っておられました).
つまりそれまではオオミノガからヤドリバエが出たためしがないし,記録もないということです.

 ところがです・・出るわ出るわとハエだらけになって,舘君がびっくり・・「先生!出ましたけど・・・」で
嶌さんがビックリ.しかもヤドリバエ.ハエを見てみたら「これは見たことがないぞー.
どこで採った,探しに行こう」とそこらを歩いたら,えらく少なくなっていることに気がついた.
また,来シーズンがあるから・・ということにしたら,もっといなくなった.
これはいかん・・と探し回ったらすでに鹿児島も熊本もどこにもいないじゃないかーてな話になったのだそうです.

 そのころ嶌さんに,「徳島にオオミノガはいるね?」と聞かれた私は,なにをいまさらとからかわれているのかと思いました.
「そりゃあんなもん,いるでしょー」「バカだねー今どこにもおらんくなっとるたいね」「ほんとですか?」と
いうようなことがあって,すぐに徳島を調べてみたら,まだ何とか少しは生きているのが見つかったのです.
嶌さんに送ったら,「ハエが入ってはいるけど,まだ生きているのもいるねー」と驚いていました.
それほど九州は早くいなくなっていたのです.でもよくよく見ると,落葉後のサクラや梅など,
それまでオオミノガが害虫として存在していたような気にまったく見つからないのです.

 そこで高知大学の荒川君にそちらはどうだと調べてもらったら,高知県の生物関係のメーリングリストで問い合わせをして,
まだあちこちにいるという情報がえられ,彼自身も見つけたというので,誰か追跡調査してもらえないかと
話したところ,卒論で調べさせようということになり,元気な学生さんが調べはじめたというわけです.

 まあそんなこんなで,今では九州でも久留米あたりにはいるところが見つかりましたが,やはり少ないようですね.
鹿児島も私が動いた範囲ではまったく見ていません.どこかいるとは思うのですが,昔に比べると本当に減りました.

 九州や本州で絶滅に至ったというほどの減り方をしたオオミノガですが,四国だけでは,
特に高知県ではまだまだ昔ほどではないが,たくさんといえるくらいいて,しかもハエもちゃんと入っているのですね.
もちろん徳島もそういう調子なのですが,徳島よりも明らかに高知県の方が多いようです.

 このハエのすごさは,オオミノガ以外にはつかないということがありまして,他のものからはまったく出ていません.
ですからオオミノガ専門の寄生のバエとして存在しているようなのに,
何と寄主を食い尽くすという寄生方法をとっているという状態だったので他の地域ではいなくなってしまい,
ハエの生活を追いかけようにもその寄主が先に消えてしまって寄生バエの生活史すらよくわからなかったのです.

 オオミノガヤドリバエの恐ろしさは,植物に微少卵を産み付けて,あとは知らないと決め込む母親と違いまして,
微少卵を産み付けるタイプではあるのですが,何とオオミノガの幼虫がミノから身体の前半分を出して
植物を食べているすぐ前にいって,ホレ食べろとばかりにすぐ近くにどんどん産卵するのだそうで,
あれでは寄生成功率が高いはずだよなー・・と嶌さんが驚いていました.
もちろんこんな寄生法を採るヤドリバエは他には知らないということでした.
 しかもたいていの場合にはたくさん寄生すると,ハエの幼虫同士が争って,1頭から数頭くらいしか
成虫にならないそうなのですが,このオオミノガヤドリバエは寄生した幼虫が仲良く餌を分け合うのか,
ハエは小さくなるけど,とことんたくさん出れるのだそうです.
普通は10頭前後出ていますが,私が徳島で見た最大寄生個体数は38頭でしたので,
これは記録ものだろうと九大にメールしたら,福岡では50数頭出た例があるので残念でした・・と返事が来ました.
とにかくすごいハエです.

 しかし,なぜか四国だけではボチボチでんなー・・・というような寄生の仕方をしていて,
両方がどうやら共存状態になっているようなのです.そのへんが面白くて高知大学では追いかけ続けているようなので,
また面白い話が出てくるかもしれません

 まあそんな調子ですので,宮崎県や鹿児島県でも気を付けておいて下さい.
なお,オオミノガのミノは,大型で4−5センチあり,冬季は小枝に糸を巻き付けてミノを固定しますが,
固定はミノの上の方をすぼめて先細型になったミノを一カ所で枝に固定します.
ですから支点が一カ所になってしっかりと止まりますが,風でフラフラ揺れるようなのは中が空になったミノです.

 一方,オオミノガとよく間違われるのはチャミノガで,このミノも結構大きいのですが3センチくらいが普通です.
それとチャミノガは枝にたいていの場合,約45度の角度で固定しています.
固定は糸を伸ばさずにミノの口をそのまま枝にぴったりとくっつける形ですので,
ミノの幅全体が枝についているように見えます.それでおおよそ45度でついているのですが・・・
それとチャミノガは細かい枝をたくさんミノにくっつけていますので,炭俵のようなイメージですが,
オオミノガは小枝をびっしりとミノのまわりに付けるようなことをせず,
あっても数本くらいでほとんどは葉を使っていますので慣れると区別は簡単です.

 でももし,オオミノガらしきものがいたとしても,今の時は採らない方がいいのです.
特にミノをちぎったりするとダメになります.今は幼虫で,春先に蛹になり,5月の中旬くらいに蛹化から羽化へとなります.
今採ると動き回ってそのまま死んでしまうことが多いので,蛹になるまで待つのが一番だそうです.
5月の連休明けの頃枝ごと採るとたいていは蛹で,であれば(ミノはよりはるかに小さい)有翅成虫が出てきます.
はご存じのように幼虫型ので,外には出てこずにミノの中で交尾と産卵をしてそのまま死んでしまいます.


大原賢二氏のオオミノガのHP
 
 金井賢一  viola-kk@po.synapse.ne.jp

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