6月の例会の話題

ホタルガ



 こんばんは.鹿昆の例会係の金井です.
 今月の例会では「北上しつつあるベニトンボに注意」と題して,松比良さんにお話を伺いました.
以下にその内容と一人一話を掲載します. 

その前に,連絡を一つ.
   鹿児島昆虫同好会は今年で設立50周年を迎えます.SATSUMAの記念号や総会を盛大にしたいと思いますので,
  皆さんからのご意見・ご希望をより多くお寄せください.
   特に総会の係りとしましては,是非色々な方からの報告を含め,企画を催したいと思います.
  講演者は自薦他薦を問いません.
  また企画のアイデアがありましたら,是非係りの方までご一報ください.全力で当たりたいと思いますので,
  どうぞよろしくお願いします.

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では,まずは例会の報告です.
「北上しつつあるベニトンボに注意」

(パソコンのプロジェクターを使用)



  ハッチョウトンボのいそうなところを探していたところ,川辺町でベニトンボの発生している場所を見つけました.
 「こんなところに?」という環境にいますので,これからも探してみてください.

・ベニトンボの特徴
   翅まで赤く見え,オスは朱色やオレンジがかった色ではなく赤紫に見えます.
   メスや未成熟のオスは黄色です.マユタテアカネに似ていますが,胸部に3本の線があることで区別できます.
  またショウジョウトンボにも似ていますが,ベニトンボは華奢な感じで額に金属色があるのに対し,
  ショウジョウトンボは二回りほど大きく,太くて頑丈な感じがします.オレンジがかった赤でも区別できます.
   ベニトンボ属は世界に40種ほどいます.
  インドから東南アジア,中国南部,ボルネオ・パプアニューギニアの西半分などに分布しています.

・今までの記録
   1954年 池田湖・鰻池で確認.分布は飛んで台湾であった.
   1979年 市来町1♀(未発表)
   1981~83年 石垣西表にて採集
   1986年 奄美大島
   1988年 徳之島
   1993年 屋久島
   1999年 吾平町(今村)加世田市(江平・松比良)
   2000年 鹿児島市犬迫町(福田輝彦) 宮崎県高岡町
       (熊本県はまだ記録が無い)
 2001年 川辺町(松比良)

・川辺町の生息域
   万之瀬川流域.川のよどみにできたような水溜りである.
  また,新しく掘った水ため場のような場所で見られるが,成熟した沼などでは見られない.
   成虫(♂)の縄張りは止水域の明るいやぶなどで,竹や木の先に止まって占有している.
  未成熟個体やメスは川沿いのやぶに休息場を持っている.
   繁殖している水場の条件は浅かったり深かったり色々で,アオミドロの生えているようなところでもいる.
  垂直な岩やブロックなどの壁面で羽化殻を採集できる.

・以前から言われていること
 池田湖や鰻池の個体群は,歴史的に取り残されたものではないか?この在来の個体は,台湾などからの移入のものに比べて
(1)小型である
(2)腹部の黒斑が発達している(正中線で黒斑が途切れない)
                 などで見分けがつく.(石田.1969)
   しかし,今鰻池で採れる個体と外来と思われる個体とを比較すると,何となく程度にしか感じられない.
  昔採集された個体の標本としっかり比較する必要があると感じている.

・川で探そう!! (今考えているテーマ)
1)競合種がいない水域を利用しているのではないか?
    水深の深いところは苦手としているトンボが多い.
    ベニトンボの幼虫はむしろそんなところを利用しているのではないか?
    他のトンボがいるような池は苦手なのか,それともそういう池では負けるのか?
2)島伝いにやってきており,一足飛びに侵入できないのでは?
3)掘ったばかりの水ため場のような,撹乱された水域で繁殖している.
4)池田湖・鰻池個体群との混血:地域個体群の遺伝的崩壊が起きているのでは?
5)形態的差異によって侵入個体と在来個体を分けるには限界があると感じる.
     このためにも鹿児島県本土の色々なところで採集し,標本を作って翅長や腹部などの特徴を集積し,
    しっかりと論じてみたい.

    特に4)については,昨年鰻池の個体を50匹調べてみたところ,大小様々な個体がいることがわかった.
  昔の鰻池の個体の標本と見比べてみたい.ちなみに,1970年の鰻池個体群と侵入個体群との間には,
  サイズなどに二型があると言う報告もある.
   とにかく,川辺町では数も非常に多い.時期は5月下旬(今年の川辺)~夏を経て10月一杯ぐらいまで見られる.
  皆さんも身近なところで侵入していると思います.是非注意して見て下さい.

(2000年犬迫町での繁殖地でのビデオを上映)福田輝彦
・田んぼ用の用水路で,時期には水深2m位になるところに,オスが占有.犬迫小学校のすぐ近くでした.

(質疑応答)
・川辺では川のヨドミということだが,鰻池などではどんな環境ですか?
    →川にいる種類が湖で繁殖しているという例は,他のトンボでも報告があります.
     人間の区分ではなく水深や流れ,植物などの条件に左右されていると思う.
     海外ではコンクリート張りの貯水槽などでも報告がある.
    →喜界島では非常に多い.湧水のある,広さ2~3畳ぐらいの場所にいる.
    →与論島では最初に記録されたのは溜池だった.その後付近の川でも記録がある.

・幼虫の確認は鰻池ではされているのか?
    →羽化殻の報告はあるが,幼虫がどれぐらいの水深を好んで生息しているかという報告は無いかもしれない.
     幼虫の好みの深さは確かに大きな問題である.

・種子島での記録がないということだが,私(廣森)は4年前に西之表で4頭採集している.
  トカラでの記録は無いのか?

    →無いと思う.

以上が講演でした.私も今年は注意してベニトンボを探したいと思います.

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では,一人一話です.

福田晴夫:スライドを使ってアオハダトンボの調査顛末記を報告.
    現在まで鹿児島県においてアオハダトンボの記録は以下のものである.
  (1)1951年5/14志布志町安楽川(最南端記録)
  (2)1958年栗野岳(たぶん駅から登山の間):竹村
     1963年栗野駅近く:田中章
  (3)1960年5/23大口オドロ(轟の間違い?):石田
  (4)1964/65年牧園町金山川(霧島神宮駅周辺の天降川流域)
     →1974年にはいなかったらしい.
  (5)1975年6月 垂水七つ谷
   以上の場所は現在いない.
    ところが,5/12えびの市でごく普通の川にアオハダトンボとオオカワトンボを見た.
   この手の川を探して,川内川支流域を5/19と5/28に攻めた.→いなかった.....
    (いた川の風景を見せるので,皆さんも探してみてください)

菊川:4月から毎週オオカワトンボを撮りたくて探し回っているがいない.
   先のアオハダトンボだが,国分市にて確認している(一同驚き).
   5/2♂確認,5/6♀もいた.ニシカワトンボは翅が透明か濃い赤のものをよく見るが,薄い赤い色のも珍しく見た.

金井: 今年はカバマダラを探し回っていますが,県本土ではまだ4令幼虫を2匹しか見ていない.
   鹿児島市内の紫原・唐湊,山川町の山下・後ろの馬場・井出方では全く見つからない.
   今日も回ってきたが,4令幼虫を見つけた山川町利永の墓場も含めて,山川4箇所は全くいない.
     5月19日奄美大島では名瀬小学校裏の墓地で卵,小幼虫,終令幼虫,蛹を採集した.
   しかし龍郷などでは見ることができなかった.
   奄美では龍郷でキオビエダシャク,ツマグロヒョウモンなどが多く,リュウキュウアサギマダラは3匹しか見られなかった.
   ツマムラサキマダラは1♂目撃のみ.他,ミカンについたアゲハの幼虫,ゲットウについたセセリの幼虫を持ち帰る.
   アゲハは6/2にシロオビアゲハ1オスが羽化した.セセリは蛹が4つである.
     5/26沖永良部ではトウワタ自体が少なく,カバマダラは成虫を1♂1♀採集したのみである.
   ナミエシロチョウが非常に多く,アオタテハモドキを1♂1♀採集した.
   ツマムラサキマダラは綺麗な個体が非常に多かった.
   コノハチョウは大山で見られなかった.

田中洋:5/4紫尾から川内にかけてアサギマダラを探したが見つからなかった.
    5/5長崎鼻フラワーパークにて50♂5メ♀にマークした.F-HT○○である.
    九州・中国・四国の方々に手紙で採集を要請している.

熊谷信晴: 4月錫山にコツバメを求めたがいなかった.
    1?日にサツマシジミ,ミヤマチャバネセセリ(翅形が変わっている)を目撃.
    ミヤマセセリはいそうなところにいない.
      市役所にはトウオガタマが有り,近所のオガタマノキと併せてミカドアゲハの幼虫多い.
    しかし,タイサンボクにはいない.葉の展開が遅いのではないか?
    最近栽培品種のオガタマノキが出回っているが,それにはミカドアゲハの幼虫がつかないのでは?
     6/2五ヶ別府町のハルニレにてカラスシジミの羽化殻を2個採った.着生植物の裏だった.
     市内甲突川沿いの某所のヤナギにコムラサキの弱令幼虫を見つけた.
    手入れのされていない,枝がワサワサしている葉を見ると食痕がある.50個ぐらい探すと1匹見つかった.
    ポツンとヤナギが1本しか生えていない環境でもいる.
     トウワタを食べるヨトウムシのおかげで,豪徳寺の我が家のトウワタは葉が無くなった.

木佐貫: 5/20群馬県伊香保にてウスバシロチョウを採集.本州ではモンシロチョウのように非常に多かった.
   オナガアゲハ,ツマキチョウなどもいた.クモガタヒョウモンを採集.
     5/28大口から出水の県境をクモガタヒョウモンを求めた.アザミはたくさん咲いているが,ヒョウモン類は無い.

野田君:犬迫町の林でモンキアゲハを見る.原良中のパンジーにツマグロヒョウモンのメスが産卵していた.
    5/31モンキチョウの交尾個体を採集.現在シロツメクサをいれて飼育中(黄色のオスと白いメスだった).

佐々木会長:最近腰痛がひどい.早く治して採集に行きたい.カミキリは今からだ!!

迫田:先月ムラサキダイコンで採卵した7個の卵は,5個がスジグロシロチョウ,2個がモンシロチョウになった.
   レモンの木に青い虫がついていたが,しばらく飼うと黒くなった.ヨトウガということで驚いた.
  この幼虫はモンシロチョウ(?)の蛹を1つ20分で食べてしまった.蛹はあめ色であり,羽化が非常に楽しみである.
   ツマグロヒョウモンの幼虫が今年は少なく,やっと大きく育った幼虫を取り込むべきか悩んでいると,翌日いなくなった.
  羽化してくれることを願う.

 質問)三角紙の中で硬くなったチョウを柔らかくするにはどうすれば?
  →硬くならないうちに密閉して冷凍庫へ!
  →イチジクの汁を注射するといいと聞くが,やったことが無い.
  →お湯を注射してある程度柔らかくして,羽の筋肉を壊してボンドまたはマニキュアで固める.
  →密閉したタッパーで水分を与えて柔らかくなるのを待つ.消毒液を入れとくと,腐敗が遅れる.

イチジクを用いた軟化法について(大原賢二氏より)


 
 質問)標本箱を自分で作るにはどうすれば?
  →標本箱だけは買ったほうがいい.特に最初の標本は思い出が詰まるから,
               しっかり保存するためにも6000円ぐらいで買うべきでしょう.

早川:夜は蛾を灯火で採集していますが,冷凍庫に入りきらないぐらいで,展翅が間に合わない.
   栗の花が咲くとテングチョウ,トンボエダシャクが非常に多い.
  イボタガの発生を確認し,4頭飼育中.ツマグロヒョウモンの幼虫が大きくなり蛹になります.
   県民の森でミヤマサナエ,シロホシカミキリを採集.

福田輝彦:九州蛾類談話会が5/26に開催された.杉さん,松浦さん,柳田さんなどが来られ,えびので採集会があった.
    飲みながら話題提供や同定,夜間採集など楽しかった.
    志布志の林さんの原稿を見て,皆さん非常に感心し,期待していた.
     来年は大分,再来年は鹿児島でやらなくてはならない.5月末の連休時,皆さんよければ参加してください.

(金井:バタフライフォーラムのように鹿昆は手伝うべきかな?)



廣森: 5/22甑島で1日採集しました.(曇り時々雨)
   林道でアサギマダラ5頭目撃.1♀はキジョランに産卵していた.トゲオトンボ見れなかった(松比良:出始めでは?)
   カミキリ数種採集(未同定).
    カバマダラ情報(博物館に電話)鹿児島市内宇宿の重信宅5/9に1♀(綺麗)産卵.
   5/20には2センチぐらいの幼虫が11匹いる.
    博物館では10月から企画展「写真で見る昆虫の素顔」を開催予定.鹿昆も是非協力を!!
   5/28福田先生とアオハダトンボ・オオカワトンボをえびので確認.その際メスグロヒョウモン確認.

本山:4/30久未崎へ.ベッコウトンボ,ヨツボシトンボ見られなかった.
   ハラビロトンボ多い.中間色にびっくりしたが,未成熟を知ってまたびっくりした.

中峯浩司:南薩にカバマダラは見られない.頴娃高校敷地内のトウワタにも,いまだ来ない.
     アサギマダラは5月中旬まで開聞岳周辺にいたが,現在は見られない.
     ゴマダラチョウが昨年は開聞周辺に多数いたが,今年はほとんど見られない.
    冬に観察した幼虫の失踪といい,少し気になる.
     種子島南種子の甥っ子が500頭アサギマダラにマークしたとのこと.
    西之表から南種子のマークを4頭採集.また,種子島から屋久島に渡った個体が出たとのことである.
     ウスバキトンボがちらほらし始めた.大量に来たときが迷蝶採集の開始である.楽しみだ!
 (お土産)トカラカラスアゲハのF2世代(おそらく越冬蛹)を多数持ってきました.
      トカラ×トカラ,トカラ×開聞など,バリエーションがあります.
      良ければもらってください.(ざっと100個以上!!)
      また,錫山のコツバメの蛹を20個持ってきました.どうぞ

中峯敦子: 吹上に毎週1回ジャコウアゲハを主にルートセンサスしています.
    5/27~28に,松食い虫への薬剤空中散布があったそうだ.運動公園の近くなので,根元に撒くだけか?!
    6/2ジャコウアゲハは終令から前蛹へのステージへ.冬を越した大株のウマノスズクサは葉が全て無い.
    林床の小さな株まで食いつくし,道路をウロウロしている状態.
    前蛹を4つ見たが,そのうち3個は腰に糸を帯びた状態で死んでいた.薬のせいか?
    ルートセンサスをしているので,他のチョウも含めて発表したい.
     東谷山小学校にハルニレがあることを確認.

以上が1人1話です.メモをとりながらでしたが,多少聞き違えなどがあるかもしれません.
文責は全て金井にあります.

また,串木野在住の二町氏よりHPにチョウの話題を掲載したとの連絡を受けました.
ウスコモンマダラが串木野に来たときの写真や,チョウセンシロチョウの写真など,珍しいものもあります.
ぜひご訪問ください.
また,串木野では二町氏の知人が2週間前にカバマダラを食草周辺で2頭目撃しているそうです.

二 町 一 成
メール nicho@po.minc.ne.jp
H P http://www.minc.ne.jp/~nicho/album-8/album-8.html

ベニトンボ,カバマダラ,50周年記念,九州蛾類談話会,
その他ご意見をお寄せくださると,係りとしても非常にうれしいです.

金井賢一  viola-kk@po.synapse.ne.jp

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