イチジク液を使った軟化展翅

 博物館では,寄贈や購入でかなり大量のチョウの乾燥標本がストックされ,展翅作業が一番大変です.
東京の方々は,お湯か水を入れておくだけで展翅すると聞きましたが,イチジクの白い液を薄めて使うと,
けっこう楽にできます.この方法が一番ということはありませんが,
イチジクは鹿児島などでは簡単に入手できるし,完成品の状態もいいように思います.
また,展翅板からはずしてからのハネの反り上がりが無いようにも思います.一度試してみられたらいかがでしょうか.

1.イチジク液の集め方と濃度
 熟さない青い実が一番たくさん出るようです.実の付け根の付近を斜めにカッター で切ります.
どちらの切り口からも出るので,一方だけ見ていると反対側のものがもったいないから,
交互にビンの口をおいて液を集めます.葉がたくさんついている木では葉の付け根を切るのもいいですね.
これもどちらからも出ますので,切った葉を握って管ビンに落とし込み
(ビンの口の所で液をそぎ落とすように集めます),反対側の木についている方からも
時々同じようにしてビンに入れます.
 初めに底面より少し上になるように水を入れておき,ビンの口の付近についた白い 液が下に流れないときなどに,
フタをして振ってやると,固まらずにうまく集まります.

 どれくらいの濃度がいいとかいうのははっきりはわかりません.そういうテストはしていないのですが,
私は,集めたい容器(フタのしっかりできる小型のビン・・ 20-30ccの管ビンかアリナミンVとか
リポビタンの小さい方のビンなど褐色ビンがよい.そうでないと乾いてしまう)の底面いっぱいにたまった液を,
そのビンの容量いっぱいくらいに水で薄めています.ただ,かなり古い標本や大型のものには少し薄いようですので,
濃くしたい場合はもっとたくさん集めてから水で薄めてやればいいわけです.

 薄めた液をよく振り,ガーゼの23重のものをロートにでも敷いてから濾してやります.
それ以上目の細かいものである必要はないと思います.濾した液をビンに入れて冷蔵庫で保存します.
時間が経つと褐色になってくる場合もありますが,効果には影響はないように思います.

2.標本への注入
 薄めた液を乾燥した三角紙標本に注入するわけですが,その前にデシケーター(といっても
立派なものである必要はありません.タッパーかプラスチックの箱でよい)で水分を(目安は12日です)与えます.
触角が触れても折れない程度にはしないといけません.ある程度水分が吸収されたら,
チョウの腹部の付け根の腹面側から頭部の方に向けて針を差し込み,胸部にイチジク液を入れ込みます.
ゆっくり静かに入れていき,漏れだしたらすぐにやめて,余分なものをふき取ります.
できるだけたくさんはいるほど柔らかくなります.この状態で三角紙に戻して,再度デーケーターに入れて
柔らかくなるまで待ちます.
 これも12日で柔らかくなるはずです.その後,触角の付け根をちゃんと動くようにし,頭が水平になっているかも
確認して(首を左右に回して軽く動くようになるまでしておきます)展翅作業をします.
これには,ポットからのお湯を器に入れて,頭を浸すようにしても構いません.
もしこの作業で柔らかくならないようなら,再度イチジク液を注入します.この間に作業ができなくなって,
数日おいたりするとカビが生えるので注意します.
クワガタムシのオスのキバが閉まってしまったような場合でも,
付け根から中に液を入れ込んでおけばすぐに動くようになります.

文:大原賢二氏よりのメールから転用